島津研究室について

本研究室では、微小な系(メゾスコピック系)に関して、実験的に研究を行っています。微小な系では、マクロな系ではみられないようなおもしろい物理現象、特に量子力学的現象を観測することができます。そのような物理現象をもとに、新しい「デバイス」(=「素子」)を作ることができ、いろいろな応用につながります。 量子力学的現象を観測するためには、多くの場合、液体ヘリウムを使って試料を十分低温にする必要があります。
過去には、低温下での常伝導および超伝導金属の微小トンネル接合の電気伝導現象、微小磁性体の電気伝導と磁性に関する現象などを調べてきました。 現在は、下記のようなテーマについて実験的研究を進めています。

現在の主な研究テーマ

電子線描画装置 ・微小ジョセフソン接合で構成される 超伝導微細デバイス の研究
・層状半導体デバイスの電気伝導特性(材料:MoS2, WSe2 など)
・メゾスコピック系の作製技術、及び超低温、超高速、超低雑音測定システムの開発

これらの研究のためには、技術的には、電子線リソグラフィー法による微小(1μm以下)構造の作製技術、超低温(約 20 mK )実験技術、微小信号測定技術、マイクロ波帯までの高周波技術、回路技術などが必要であり、実験は楽ではありません。
技術者として必要とされる実践的な技術を勉強できるので、熱心に取り組んでいれば、メーカー等の技術職への就職には役立ちます。

超伝導微細デバイス

量子ビット超伝導や、ジョセフソン効果は、それ自体が、「巨視的量子効果」であることが古くから知られていますが、微小ジョセフソン接合(超伝導体のトンネル接合)は、原子や分子よりもはるかに巨大であるにもかかわらず、適当な条件のもとで量子力学的重ね合わせ状態をとることが、この数年の間に実証されてきました。微小ジョセフソン接合系について調べることで、深く量子力学を理解することができるとともに、新しいデバイス(素子)への応用につながるものと考えられます。特に注目されている応用例として、量子コンピュータや量子暗号という研究分野があります。量子コンピュータでは、このような超伝導デバイスを「量子ビット」として使用します。
近年には、数センチメートルという巨視的なサイズであっても、超伝導微細デバイスが量子力学にしたがってふるまい、「量子回路素子」として使うことができることが実証されています。

微小ジョセフソン接合

JJ 電子線リソグラフィーと超高真空蒸着装置を使って、アルミニウムを電極とする非常に小さなトンネル接合を作ることができます。これを約 1K 以下に冷却すると超伝導状態になり、ジョセフソン接合として動作します。

層状半導体デバイス

MoS2層状デバイスとしては、「グラフェン」という炭素原子の薄膜が非常に注目されており、研究が盛んに行われています。MoS2, WSe2 などの物質は、グラフェンと同様に単層のシートを容易に得ることができ、半導体的性質を示すという特徴をもっています。これらの物質の薄膜をつくり、電極を微細加工技術で形成することで、層状半導体で作った電子デバイスを作製できます。このデバイスの代表的な応用例は、電界効果トランジスタ(FET)であり、これを使って、スイッチや増幅器を作ることができます。

研究の成果など

蒸着装置 2004年度に製作した希釈冷凍機測定システムによって約20mKまでの測定が可能です。
(製作者:島津、和田(洋)、新関、山本、吉田、和田(全))
2005年度には、1マイクロ秒以下の長さのパルスを使っての量子状態の測定
(量子コヒーレンス時間の測定を含む) を行えるようにしました。

/*** 2007年度 ***/
・共鳴マイクロ波測定による単一ビットのエネルギー分光、量子ビットのエネルギーギャップの測定、パルスによる量子状態の測定、エネルギー緩和時間の測定 その他 (試料作製:和田)
・4接合型磁束量子ビットの基本動作の実証 (試料作製:斉藤)
................................
/*** 2011年度 ***/
量子コヒーレント振動(ラビ振動)の観測
量子ビットと SQUID (超伝導量子干渉素子)のエンタングルメント状態の生成と操作(これらを実験的に確認)
/*** 2012年度 ***/
ラムゼー干渉(ユニタリー変換3個による量子状態制御)およびスピンエコーの信号の観測 (試料作製:高橋 他)


ラビ振動

2個の量子状態からなる量子系では、エネルギー間隔に共鳴するマイクロ波の印加によって2状態間での量子力学的振動が起こり、これをラビ振動とよびます。下図は、3個のジョセフソン接合を含むループ状の回路(磁束量子ビットデバイス)におけるラビ振動の測定結果です。このような素子は、量子力学的にふるまい、マイクロ波パルスによって量子状態を制御できるので、量子コンピュータの基本素子である量子ビットとして応用できるものと考えられます。図の結果では、約5 ns 間隔で量子状態が振動し、途中で重ねあわせ状態が作られていることがわかります。

rabi

興味のある皆さんへ

希釈冷凍器 低温実験、微細加工技術、超伝導量子ビット等の研究内容に興味のある人、または質問のある人は、説明を聞きにきてください。


上記の研究内容、または技術的内容に関して研究意欲のある学生を募集しています。